医療において、患者中心の考え方はますます重要視されています。その中でも、シェアード・ディシジョン・メイキング(Shared Decision Making;SDM, 共同意思決定)は、患者と医療従事者が共同で最適な治療方針を決定するプロセスとして注目を集めています。スリーロックはUbie社との共催ウェビナーにて、SDMの重要性やその実践を阻む壁、疾患領域やペイシェントジャーニーによる違いなどをお話しいたしました。その内容をもとにSDMと製薬業界の役割を改めてご紹介いたします。
そもそもSDMとは
SDMはあるべき治療方針を決定するアプローチです。聞こえの良いコンセプトですが、昔からあったわけではありません。医療においては、長らく医師が患者に指示・干渉するパターナリズムと呼ばれる一方的なコミュニケーションがとられていました。1990年代から、医師からの説明に患者が同意するインフォームドコンセントというプロセスが広がります。そして、患者と家族、医療チームがそれぞれ情報や希望を話し合い、最も適した治療を選択できるようSDMの考え方がうまれてきました。

SDMを意識したコミュニケーションを大事にすることで、患者の治療満足度の向上や治療への積極的な参加を促すことが期待されています。例えば、日本がん研究センターの患者サポートにおいて、「標準的ながん治療後の治療やケアについて、患者自らの価値観や意向に即して事前に情報を整理し、ご家族や医療者と話し合い、共有するための意思決定支援プログラムを開発し、その有効性を科学的に示し、社会実装するための仕組みづくり」としてSDMに取り組んでいます。
SDMの実践
コンセプトとしてSDMは素晴らしく感じられます。では、具体的にどのようにSDMを実施すべきでしょうか。例えば、医療分野や疾患における違いがあるのか、理想的な形は何なのか、そもそも医療コミュニケーションはどのようになされているのか、は興味深いところです。実はそのようなメタ分析が海外では行われています。その研究で、世界中のSDMのモデルやガイドラインを見比べると、疾患によって「SDMのあるべき姿」は異なっていることが指摘されています。
例えばオンコロジー(がん治療)領域では以下の要素が挙げられています。

一部の項目を補足説明すると、下記のようになります。
治療選択肢の説明:患者に対して治療の選択肢をわかりやすく説明すること。
個別化された情報:患者個々の状況に応じた情報提供。
相互による検討:医療提供者と患者が共同で治療方針を検討すること。
患者が考える時間:十分な検討時間を用意してあげること。
一方で、オンコロジーではない他の領域の治療においては、別のコミュニケーション要素(アジェンダの設定、パートナシップの構築など)の方がより重視すべき要素として結論付けられています。スリーロックの経験からも言えることですが、同じ疾患でも、患者さんがペイシェントジャーニーのどの段階にいるのかによって、求める情報および支援は異なってきます。つまり、それぞれの医療ニーズが交差するポイントをおさえる必要があるということです。理想的には個別化された医療コミュニケーションが求められます。
製薬企業や医療機器メーカーのアプローチ
メーカーがSDMに関与して成功させるためには、思いつきでSDMをプランにいれてもうまくいきません。計画的なアプローチが必須です。そのためには、まず患者のペルソナ(典型的な患者像)や治療過程(ペイシェントジャーニー)を設計することが効果的です。全体の戦略を構築したうえで、その戦略の一環として実行するべきです。また、その際にSDMありきの戦略を立ててしまうのは戦略立案の落とし穴です。しっかりとニーズや傾向から環境分析を行ったうえで、自社が貢献できるポイントを見定めましょう。