病院を「動かす」営業ができる 戦略的アカウントプランニング

2024年02月13日
病院を「動かす」営業ができる 戦略的アカウントプランニング

MRが個々の医師に熱心に営業活動をしても、自社の製品の処方動向がほとんど変わらないといったことはありませんか。単に訪問回数を増やすだけでは、医師の行動を変えてもらうことはできません。営業活動が行き詰まった医療機関に対しては、戦略的かつ実効性の高いアカウントプランニングを作成することで、やるべきことが明確になります。

ステークホルダーを見極め、役割を把握する

従来のMR活動は処方医一人ひとりをターゲットとし、投与の判断をサポートするために医薬品の情報提供を行っていました。一方で製薬企業における新薬開発は近年、これまで治療が困難であった希少疾患や複雑な医療管理を必要とするスペシャリティ領域の製品が増えてきました。このような疾患は1人の医師の判断ではなく、チーム医療が必須となり、他のスタッフのサポートが得られなければ診療が困難になってきています。

アカウントプランニングでは各ステークホルダーの関心ごとや困りごと、対象疾患に関わるうえでのモチベーションや障害を洗い出し、まずは医療機関の全体像を理解します。多様なステークホルダー、それぞれの優先事項や組織間のコンフリクトを紐解き、顧客理解を深めるところから始める必要があります。

たとえば注射剤を導入した場合、剤型や薬剤特性によっては看護師が投与方法を覚えなければならないし、薬剤師は医薬品管理フローの見直しが発生することがあり、変化に抵抗を感じるかもしれません。注射剤に限らず、高額な医薬品は医事課などの事務職からは院内の薬剤在庫金額の上昇を抑えるよう要望が寄せられることが考えられます。さらに検査技師、カウンセラーなどが関わることもあります。ステークホルダーにどういった職種がいて、対象疾患の治療選択への発言権を持つDMU(Decision Making Unit;意思決定関与者)は誰なのかを把握しておくことが重要です。誰が誰と影響し合っているかがわかったうえで、自社品の処方の選択に最も影響力のある人からアプローチをしていくのがセオリーですが、その人物は医師ではなく他の職種かもしれないのです。

データ活用は競合に勝つための必須条件

内情が見えてきたら、対象となる医療機関の地域における位置づけ、どういう役割を果たしているのかを、できる限り正確に認識しておく必要があります。MRがその医療機関に期待する診療活動の姿が、実は近くにある別の医療機関が役割を担っていて的外れなプランだった……といったことがあったりするからです。

医療機関のホームぺージのチェックはもちろんですが、都道府県の医療計画やエリアの行政の取り組みなど、さまざまなデータを読み込むことです。プライマリ領域は医薬品の売上データをみれば、医療機関ごとに患者が集中している状況がある程度わかります。DPC対象病院の場合、各疾患の入院件数や入院中に行われた処置内容もある程度確認できます。そのほかNDBでは地域ごとにどのような検査や手技が行われているのか把握することができ、オープンソースで提供されているデータでもある程度の推測が可能です。製薬企業ではデータを社内で可視化する仕組みをつくっているところもあるのでぜひ活用しましょう。

競合他社のMRはデータを確認したうえで医師とコミュニケーションを図っているかもしれません。競合のMRよりもデータが使いこなせているかどうかが勝負どころとなるので、いまのうちにマスターしておかなければ置いていかれてしまいます。

中長期ゴールから逆算して実行すべきことを明確にする

アカウントプランは通常、ターゲットとなる医療機関において自社品が適応をもつ疾患が診療に理想的に組み込まれている、6カ月~1年先に達成したい“あるべき姿”をゴールに設定します。そのゴールから逆算してステップバイステップでやるべきことを明確にします。たとえば3カ月後にその医療機関にどうあってほしいのか、数値や誰の行動なのかなどを含めた具体的な内容を書き込みます。そしてゴールと現状との差をギャップとして認識したうえで、どの順番でいつ誰に何をしてもらうのかを明確にします。

各ステークホルダーのマインドや行動変容を促すために、いつまでに誰にどのようにアプローチするのかが書いてあるのが理想的なプランです。下記のマインドセットと行動変容を示すピラミッドの図のように、最初にステークホルダーの現状をよく把握したうえで、ゴールに対して変えたい行動や考え方をイメージします。そしてSTEP AからSTEP B、さらにSTEP Cと段階的に変化を促すために、MRがとるべきアクションを考えます。その際、行動変容を起こすにはどういう後押しが必要かを考えます。MRのアクションはうっかりするとアクションを実施することが目的になってしまうことがありますが、アクションはあくまで顧客の行動変化を起こすためであることを意識しましょう。

課題解決にオムニチャネル、社内リソースを活かす

最後に、納得度の高いアカウントプランを作成するためのヒントを示します。

1: 人材をはじめとした社内リソースを十分に活かしてアカウントプランを作成しましょう。1人で実行するとどうしても視野が狭くなってしまいます。MRが1人で完結させることにこだわらず、営業所長、同僚のMR、MSLやKAMなど他の人のサポートによって大きく状況が変化する可能性も検討しましょう。アカウントプランが他の部門の人にも伝わるくらい、「何を成し遂げたい」のか「そのために誰のサポートが必要」なのかが明確で、説得力がある仕上がりになっているほど、協力を得られるようになります。MRが各アカウントの全体像を把握し、社内の人のサポートタイミングや内容をデザインできるかが成功のカギを握ります。

2: アカウントプランを実行するには、場合によっては今まで以上に幅広いステークホルダーに面談し、行動変容を促す必要があり、時間とコストがかかります。リソース不足、カバーすべきエリアが大きいといった作成に伴う課題の解決策の1つとしてオムニチャネルも検討しましょう。ステークホルダーに対し、デジタルを交えた個別化と十分な情報提供によって、複数のチャネルからのアプローチすることで面談のみの活動よりも変化を加速することができます。

チーム医療の推進によりステークホルダーを視野に入れて効果的にアプローチする必要性は、医師の働き方改革が施行される2024年4月以降、増していきます。この状況を好機と捉え、アカウントプランをより深く検討し、実践に移すことで、医療業界の変化に対応し、営業活動を次のレベルへと引き上げるチャンスとしましょう。


スリーロックでは製薬企業に対し、アカウントプランニング、データ活用に基づく戦略立案といったサポートを行っております。また、ステークホルダーを動かすオムニチャネル、患者とカスタマーの行動変容にフォーカスしたセミナー「製薬向け 戦略立案・実行ブートキャンプ」を2024年4月に開催します。

お問い合わせ
CONTACT

サービスやセミナーの詳細など、お気軽にお問い合わせください

フォームでのお問い合わせ
お問い合わせ
お電話でのお問い合わせ
03-5465-0367
受付時間 平日10:00 - 18:00