地域医療の担い手 vol.1
親子三代で地域の予防医療に貢献

2023年10月25日
地域医療の担い手 vol.1<br>親子三代で地域の予防医療に貢献

日本各地には地域の医療を支えているたくさんの方々がいらっしゃいます。このシリーズでは地域医療を担うキーマンに、さまざまな視点から取り組みを語っていただきます。
今回は、一般財団法人北陸予防医学協会の永田義毅副理事長に、健診事業による予防医療の地域での展開をお聞きしました。

(インタビュアー:シュナック千賀子)

永田義毅 略歴
一般財団法人北陸予防医学協会
副理事長・医療管理本部長
千代田循環器内科クリニック院長

1992年、昭和大学医学部卒業後、金沢大学附属病院第一内科入局。99年より富山県立中央病院に勤務、2012年、内科部長に就任。2018年より北陸予防医学協会で勤務、同年7月に千代田循環器内科クリニック院長に就任。2021年、同協会副理事長に就任。

人間ドックにクリニックを併設、健診後のフォローと効率化を実現

――北陸予防医学協会の事業内容を教えてください。

祖父が1949年に富山県高岡市で受託X線撮影所を開設しました。その後、巡回健診を開始し、創業75年を迎えます。現在は県内に3つの健診拠点施設を整備しています。巡回健診は、市街地から山間部まで検診車を走らせ、県内全域の健康診断をカバーしています。県内の企業約8000社と契約し、県民の疾病予防に取り組んでいます。設備の充実に伴い、受診者数は順調に増えています。

2018年に開設した健診拠点の「とやま健診プラザ」には循環器疾患と生活習慣病を診療するクリニックを併設し、私が院長を務めています。健診で異常が見つかった方々へのフォローアップのため、北陸予防医学協会の健診データベースと連携しています。受診者の健診データを閲覧できるため、人間ドックや血液検査の経過など過去のデータを遡って確認することができます。生活習慣病のような長期で経過を診る疾患の治療に、特に有効な仕組みだと思います。

健診で得られた医療データと画像診断装置を効率よく使い、精度の高い健診後のフォローアップを行うことがクリニック併設の目的の一つです。予防医療を推進するうえで、単に血液検査の異常をもとに指導するより、画像診断を併用して病状を説明したほうが、疾病予防の重要度が理解しやすく、薬物療法の継続や生活習慣改善の行動変容につながります。しかし、人間ドックで利用するMRIやCTなどの装置は、高額な医療機器であるため、富山のような地方都市では、採算が取れるだけの収益を維持することが困難です。クリニックで共同利用することにより利用件数を増やすことができるため、設備や人員を効率よく活用できるメリットがあります。経営的にも負担が減り、受診者により良い医療を提供できる相乗効果が期待できます。

病診連携によって退院後の患者をサポート

――開業医として、地域医療の役割をどう考えていますか。

私は循環器専門医として、金沢大学附属病院や富山県立中央病院で、さまざまな心臓病の治療を行ってきました。病院に勤務していた時、手術後に患者さんを地域の開業医の先生に紹介していましたが、循環器の非専門医だと専門的な医療を受けたいという患者さんのニーズと合わず、患者さんの意思で病院に戻ってくるケースもありました。病診連携を進めるためには紹介する病院と、かかりつけ医の双方とも、ある程度の専門性がないと上手くいかないと感じていました。私が開業した際には、循環器疾患を専門的に診療できるクリニックと広く理解していただけるように、「循環器内科クリニック」にしました。

現在は病診連携により、生活習慣病や循環器疾患の治療を受けた患者さんを中心に管理しています。治療内容や方針は日進月歩するため、病院の先生方の考え方を最大限尊重しつつ、私自身の経験をもとに診療を継続しています。人間ドック施設の画像診断機器や血液検査室が併設されているため、総合病院の外来と遜色ない医療を提供できることが特徴であり、専門性の高い外来を目指しています。また、患者さん方は、術後の傷の悩み、肩凝りや胸痛が重大な疾患の兆候なのではないかなど、いろいろな不安をお持ちですので、治すと同時に癒すことが大事だと思っています。専門医としての医療を維持しつつ、かかりつけ医として地域医療を支えていこうと考えています。

予防医療では重大な病気が起こる時期の先送りが可能

――健診には病気の早期発見や再発予防など、予防医療の役割があります。

日本の患者数の約半分が高血圧と糖尿病、脂質異常症であり、生活習慣病の予防医療は今後さらに重要です。この3つの生活習慣病を放置しておくと、心臓病やがんといった大きな病気になるからです。予防医療の目的は、個人レベルでは「大きな病気にかかりたくない」「寝たきりになりたくない」「健康寿命を延ばしたい」といったことになりますが、国として期待しているのは医療費の削減です。ただ、予防医療を推進することで医療費を減らすというエビデンスはまだありません。

確実なのは、予防医療によって重大な病気が起こる時期を先送りできることだと思います。私の祖父がレントゲン撮影診療所を始め、レントゲン撮影を普及させたことによって結核の早期発見・早期治療につながりました。結核の蔓延を抑えることによって、社会全体の生産性が高まったと思います。現在ではがんの早期発見や生活習慣病対策を中心とした健診を広めることで地域住民の健康と健康寿命の延伸に貢献しています。超高齢社会は、医学が発展してきたお陰ですが、介護を必要とする不健康な状態のまま寿命が延びても辛い期間が延び、生産性が低下するだけです。予防医療に使った労力や予算以上に、生産性が上がれば社会的意味を高められると思います。

県民の健診データ活用により地域の健康にもっと貢献したい

――ヘルスケア企業との協働による地域医療の課題解決について考えがありますか。

個人的には、これまで蓄積してきた健診データを活用して地域の人にフィードバックしたいと考えています。その第一歩として、健診を受診した富山県民約14万人のデータを解析して、心房細動の危険因子を抽出しました。その結果、高リスクな要因は高血圧、肥満、飲酒とわかり、論文発表と地元の新聞などを通して啓蒙活動を行いました。

北陸予防医学協会の健診は県内でも比較的大きなシェアを占めており、富山県民を代表する健康データベースと考えてよいと思います。製薬会社などヘルスケア企業は、地域医療に貢献するために健康な方のデータを必要としていると思います。健診データを今後の医療活動やマーケティングに役立てて、新しいビジネス創出に活用できないかと考えています。

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