在宅医療のニーズが高まっているなかで、在宅ケアの要として訪問看護の役割は大きくなっています。ICT、IoTを活用した業務の効率化、働きやすい環境整備を掲げる、そふと訪問看護ステーションの永澤成人取締役CNOに、その取り組みを話していただきました。(インタビュアー:柴田菜生)
ICT、IoTによる新しい訪問看護ステーションの魅力を示す
――そふと訪問看護ステーションの特色についてお聞かせください。
2023年7月に、横浜市磯子区で開業したばかりの訪問看護ステーションです。スタッフは現在看護師3人、理学療法士と作業療法士が1人ずつです。「サステイナブルな次世代の訪問看護の創出」をミッションとしています。AI、ICT、最先端モビリティと既存の訪問看護を融合させることで、質の高い訪問看護サービスと効率的な業務、ライフスタイルに合った働き方の提供を目指しています。
働き方改革、SDGsといった社会的目標の達成を考え、新しい訪問看護ステーションの魅力のひとつとして、看護師が移動する際に最先端の電動キックボードを導入しました。IoT搭載モデルで、訪問先までの走行ルートや速度制限を安全に管理できます。これにより、看護師の自宅から利用者さん宅までの直行直帰が可能となり、働きやすい環境を整えています。また、オペレーションの効率化を図るため、バーチャルナースステーションという考えを取り入れました。従来の訪問看護では事務所で行っていた情報共有や記録を、ICTを活用してバーチャルで行うというものです。大手企業との協働で、メタバース上にナースステーションを置くことも検討しています。業務の合間に集まりやすくなるので報告や相談ができ、病棟に近い感覚で勤務できます。事務所は開設の認可を取るために必要な物品を置くだけのミニマムなスペースで事足りますし、経費削減にもつながっています。
訪問看護は、看護師1人の観察だけで利用者さんの状態を判断しなければならないため、看護師が不安を抱きやすく、個々の力量も問われます。そこで関連会社であるPST株式会社が開発中の音声分析技術を活用したケアを将来的には導入する予定です。
https://medical-pst.com/research/
音声から病態を鑑別する技術では、認知症などの疾患リスクや心臓機能の低下などの状態把握などが可視化できるようになります。看護師自身の判断だけでなく、客観的指標があることで安心して働くことができます。このような取り組みを確立し、訪問看護ステーションの新しい形として提案していきたいと思っています。
在宅ケアに欠かせない利用者と家族への疾患教育、介護指導
――訪問看護の現場が抱えている悩み、課題などはありますか。
訪問看護は利用者さん宅を訪問するスタッフを固定しているケースが多いです。チームで関わった場合は、複数の看護師によって介入の検討ができるため看護の質が上がりますが、そのメリットを得ることが難しいのが課題です。そこで、当ステーションではチーム体制で対応するようにしています。利用者さんやご家族とのコミュニケーションもICT化を図っていて、ビジネス版LINE 「LINE WORKS」でトークルームを作り、日々の情報共有をするなどチャット機能を活用しています。実際の環境はクローズドですが、ステーションで全員が見えるような感じです。
そのほか、在宅での療養生活を続けるためにも利用者さんやご家族に対しての疾患教育や介護方法の指導が必要だと思います。私達が訪問した際に状態が悪くなっていることに気づけば必要に応じて入院手続きなどを行いますが、訪問していない時間のほうが圧倒的に長いからです。日々の血圧、体重などの測定結果、体調の変化から、利用者さん自身が悪化のサインに気づいて受診を必要とする状態がわかるように、当ステーションではスタッフが指導しています。利用者さんが疾患について理解していれば、何か普段と違ったことがあった時にも自分で対処できて安心です。
利用に関してですが、24時間オンコールサービスをつけている場合、緊急に看護師の対面対応を必要としないケースでも連絡が来ます。訪問看護サービスの仕組みについても、事前に教えることで、ちょっとした相談ごとは訪問時にするといった共通認識を図れます。
求められるのは、利用者目線に立った資材の作成
――疾患教育では資材作成などで、企業との協働で課題解決ができそうです。
「こういう症状は気にしなくても大丈夫」「こういう症状があったら看護師を呼ぶ」といった判断ができるガイダンスがあれば利用者さんやご家族の不安、スタッフの負担が減るので、疾患教育については民間企業からのサポートを期待しています。現在、利用者さんや家族向けの教育プログラムは体系化できていませんが、パンフレットといった資材はあります。製薬会社などが疾患に関するパンフレットを作成しているものの、その疾患を抱えた人が自宅で生活するための介助方法といったノウハウまで書かれているものは少ないです。例えば、「心不全で在宅療養中に、再入院をしなければならない時の症状」などは医療職向けのテキストに記載はあっても、利用者さんやご家族が使えているパンフレットには多くない印象です。
せっかく資材を作成いただくのであれば、医療現場の意見を吸い上げたうえで、利用者さんの目線に立った、使い勝手がいいものを一緒につくっていただけるとありがたいです。教育プログラムを作るのであればeラーニングの仕組みなどは企業との協働が欠かせませんし、私達が取り組んでいる訪問看護ステーションのICT化などを含めてパッケージとして、他のステーションにヨコ展開していくことなども視野に入れています。そういったところでも支援いただければと思います。
「必要な人に必要なケアを提供する」役割を果たす
――地域医療における訪問看護の役割をどう捉えていますか。
地域医療の課題として行政の方がよく言うのは、「必要な人に必要な支援が届いていない」ということです。私達からしても、サービスを届けるべき人を見つけられていないところがあると思っています。まずは利用者さんの窓口となるケアマネジャーや医療機関のMSWに、私たちのことをよく知ってもらわなければなりません。そして利用者さんに対しては、訪問看護サービスの内容を説明し、必要性を自覚していただくことです。
訪問看護は、在宅療養をしている利用者さんに一番近いところにいるのが強みです。病態だけでなく、生活を含めた状況を把握し、その情報を地域包括支援センターや連携する医療機関、介護サービス事業所に伝えることで、より充実した在宅ケアを提供していくことが私達の役割です。訪問看護ステーションは人手不足なこともあり、利用者さんからの相談を受ける時間を十分に確保できません。そこで医薬品をはじめ、小さな困りごとについての相談窓口を製薬会社などが作っていただけると有難いですね。