地域医療の担い手 vol.3
地域で必要とされる医療を提供する「コミュニティホスピタル」を目指す

2024年03月12日
地域医療の担い手 vol.3 <br>地域で必要とされる医療を提供する「コミュニティホスピタル」を目指す

地域医療を担う病院は現在、自院のあり方を模索しています。44床の小規模病院ながら医療DXや企業とのコラボレーションなどを積極的に進めることで、医療提供体制のイノベーションを起こしている公平病院の公平誠理事長・院長に、地域医療の課題や今後の展望をお聞きしました。(インタビュアー:藤井弘子)

健康格差の課題解決のカギを握るSDH

――病院のある埼玉県戸田市の地域医療をどうみていますか。

戸田市は都心まで20分でアクセスできる、東京の周辺都市です。若い世代が多い一方、健康寿命は県内で一番短いと言われています。背景には健康格差があり、人々の健康に直接的な影響を与えるとされる、経済的困窮や孤立といったSDH(Social Determinants of Health;健康の社会的決定要因)があると私は考えています。医師が不足している、インフラが整備されていないといった山間部でのSDHが取り沙汰されますが、戸田市のような都市部にも存在します。SDHはがんや糖尿病といった生活習慣病の予後を悪化させていることが明らかになっています。これらの解決に向けて、医療機関が介護や福祉、地域と連携したうえで、患者の生活を支援するための社会資源につなげる「社会的処方」の取り組みが必要です。

自治体や企業との連携で地域医療の課題に挑む

――地域医療に関連した自治体や企業との協業が注目されています。スリーロックでも自治体や外郭団体との協業で、地域の健康や医療につなげる取り組みを行ってきました。

日本において、SDHに疾患の観点から取り組んでいる自治体や医療機関はほとんどありませんが、米国糖尿病学会の診療ガイドラインにはSDH対策を行うように明記されています。啓発していく必要性を感じていましたが、一つの病院で取り組むのは難しいと考え、行政や企業との連携を進めています。

行政とのコラボレーションとしては2022年7月、戸田市と「オンライン診療の実証実験に係る包括連携協定」を締結しました。実証実験では、対象となる地域で戸田市立地域包括支援センターの保健師や社会福祉士が、老人会などの地域ネットワークから情報を得て、高齢や疾患、生活環境などを理由に医療機関にアクセスできていない高齢者を掘り起こし、医師が診療および社会的処方を行います。経済状況や友人との社会的ネットワークの有無などをスクリーニングして、支援が必要な場合は医療と地域の社会資源のつなぎ役となるリンクワーカーに引き継ぎ、さらにリンクワーカーから介護保険サービスや介護予防活動への参加などにつなげるというものです。今では当院だけでなく、蕨戸田市医師会の会員病院も加わり、より広い地域で展開していく体制が整いつつあります。

SDHおよび地域医療の課題として、医療機関に足を運べない交通弱者の問題があります。医療MaaS(Mobility as a Service)というものが世界的にあると知り、ヘルステック企業と車両メーカーと一緒にオンライン診療車を開発しました。看護師が車両に乗り込んで患者さんの自宅を訪問し、病院にいる医師がオンライン診療を行うD to P with N(Doctor to Patient with Nurse)の仕組みをつくりました。戸田市との実証実験でも活用し、市から派遣された看護師が車で訪問しています。

多様なニーズに応える新しい病院像を示す

――地域に必要とされる医療を実践する「コミュニティホスピタル」を掲げています。

当院ではコミュニティホスピタルを、「一人ひとりの暮らし、想い、価値観に寄り添った地域医療を通して、地域のみなさまが必要とする医療提供を目指した病院」と定義しています。つまり、時代や社会の変化の中で多様化するニーズに応えるということです。

一般的にコミュニティホスピタルというと高齢者医療に特化したイメージですが、当院は若年層への急性期医療にも対応しています。疾病構造の地域特性や患者層を分析したところ、実は高齢者よりも40~50代がボリュームゾーンになっていて、10代の患者も多いことがわかったからです。そのため現在は、急性期病床で運営しています。

一方で、当院のある南部医療圏は回復期病床が不足しており、地域内でケアが完結していないという課題があります。地域医療の課題解決のため、そして将来的には高齢患者の割合が増えていくことを考慮して、今後はサブアキュート、回復期、緩和ケアの患者さんを受け入れる体制を整備します。2026年に新築移転を計画していますが、新たに地域包括ケア病床と緩和ケア病床を開設するなど、在宅支援機能を充実させたいと考えています。

デジタルシフトでアクセス改善、患者経験価値向上も

――医療DXの推進により、業務効率化と医療アクセスの改善を追求しています。

リソースが限られたなかでコミュニティホスピタルとして幅広い患者ニーズに応えていくためには、業務効率化が必須です。そのためにオペレーションを見直し、医療DXを推進しています。2016年に電子カルテを導入したところからスタートし、2020年4月からは院内の連絡用にiPhone、iPadをスタッフに支給しています。点滴の管理と個人認証は電子カルテ上のバーコードで、web会議や院内マニュアルの参照はiPhone上で行っています。

自院で独自システムを開発し、オンライン診療を積極的に進めています。2023年12月に新規開院したクリニックではLINEからオンライン診療をはじめ、Web問診を受け付けています。会計は後払い決済を導入することで、診察後すぐに処方箋を受け取ることができ、待ち時間が発生しません。専門業者が請求業務を代行し、未収金問題もクリアしています。また、バーチャル(オンライン)とリアル(外来)を組み合わせるべく、PHR(Personal Health Record)を統合してカスタマーサービスを支援するクラウドサービスを2022年に採用しました。患者さんの医療・介護・健康データだけでなく、窓口や電話での対応履歴までを紐づけて一元的に管理することが可能です。これによって外来の医療チームと患者さんが情報共有できるようになり、患者参加型のデジタル基盤を構築し、よりよい医療サービスの提供につながります。個別化した医療を実践することで満足度が高まり、患者経験価値(Patient Experience)が向上する可能性もあります。

製薬企業に期待されるDTxへの参画

――病院として今後も、企業とのコラボレーションを考えていますか。

ツールの開発や共同研究といった企業との連携は、今後も積極的に取り組んでいきたいと思います。例えばオンライン診療では、将来的にDTx(Digital Therapeutics;疾患の治療に使用される、アプリなどのデジタル製品)が必須となります。医療機関のプラットフォームに加えて、自らの健康管理を行うために患者さん側にPHRが必要だからです。当院ではオンライン診療で糖尿病の患者さんに対し、血糖値を測るアプリを採用しています。自己血糖測定装置と連携していて、80代の患者さんでもデバイスを使いこなせています。

昨年、米国で開発・販売されている糖尿病治療アプリの日本での製品化を製薬企業が進めていることが話題になりました。日本の製薬会社には今後、地域のクリニックと一緒になってPHRやSaMD(Software as a Medical Device;プログラム医療機器)の活用などを進めていただくと面白いと思います。患者さんと医療従事者を支援する、デジタルを活用したソリューション開発を行うことが新たな価値を生み出すと思うので、日本においても積極的な取り組みを期待しています。


スリーロックでは自治体や外郭団体といったステークホルダーと協業し、地域医療の課題解決をサポートしています。

たとえば、疾患予防として住民向けの啓発イベントを企画・実行支援したり、自治体や住民グループを巻き込んで行う骨粗鬆症の予防活動などに貢献しています。「がん検診と精密検査受診率向上のフィージビリティ調査・実行」「特定の疾患における産官学協働による再発防止のエコシステム構築」といった実績もあります。さまざまなプロジェクトにおける連携のハブとして、スムーズな企画と運営を支援します。

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