アメリカのインテグリティ・ソリューションズ社が開発し50年以上にわたり世界中の企業で愛されているセールストレーニング「インテグリティ・セリング」。このプログラムに情熱を注ぐ二人が、今求められているセールスの在り方を探りました。
医師のニーズを正しくつかんでいますか?
山岸:コロナ禍では、ヘルスケア業界でもセールスやマーケティングの在り方に大きな変化が起こりました。MRは、従来のスタイルが通用しにくくなっています。
松田:顧客であるドクターが忙しいのはコロナ禍の前から変わりません。ただ、感染防止のために病院がMRの訪問を制限するようになり、MRが医師と面会できる機会は激減しました。そうなると、限られたチャンスをいかに活かすかが鍵となりますが、「ようやく医師と面談できても、一度きりで終わってしまう」とのお声をよく耳にします。
山岸:最大の理由は、医師のニーズを正しくつかめていないことでしょうね。だから次につなげられない。
松田:そうです。自社または自分の思いが優先してしまうケースが見受けられます。医師からすると、自身の興味と関係ない製品の説明ばかりを聞かされても、「また会いたい」とはならないでしょう。オンラインであっても、医師は一定時間、PCの前に縛り付けられるわけですからね。顧客のニーズをとらえ、そのニーズに対応した価値ある情報が提供できているのか。セールスの在り方そのものが問われている時代ではないでしょうか。
山岸:昨今の製薬業界は、薬価引き下げの影響もあり、厳しい経営環境に置かれています。将来のキャリア構築に不安を抱いているMRの方も少なくないはずです。私たちが提供する研修プログラム「インテグリティ・セリング」により、そんな状況を乗り越える力、自信が身に付く。そう確信しています。
「製品」から「人」へ、視点を移そう。
山岸:インテグリティ・セリングは、セールスでの会話を6つのプロセスに分けたAIDINC®というフレームワークが用いています。先ほど話題に上った「ニーズを知る」は、AIDINC ®では2番目のプロセスである「インタビュー」が該当します。受講者から最も難しい、さらに改善したいとの感想があがる箇所です。
松田:医師に「なにかご要望はありますか?」と伺ったところで、「副作用が少ない薬が欲しいかな」くらいの漠然とした返答しかもらえないでしょう。だからこそ質問力が問われます。ここで重要なのは、潜在化しているニーズを引き出すこと。研修に参加される方々は、質問力への関心がたいへん高いですね。インテグリティ・セリング受講後、質問力だけに特化したワークショップや動画配信を行うことも多々あります。
山岸:インテグリティセリングで特徴的なプロセスはバリデーション=立証です。全てのプロセスにわたって、顧客には自分自身、自社、自社製品を信頼してもらう必要があります。(信頼してもらわなければ、交渉もできません。)
松田:お互いの信頼関係が十分に築けていないうちに「うちの製品をよろしくお願いします」で締めても、なかなか望ましい結果にはなつながりませんね。
山岸:一方通行は禁物。まずは誠実に対応し信頼関係を構築することが重要です。 山岸:顧客に対して自社製品説明で一方通行だった営業担当者が、研修受講後に顧客の立場、医師や患者さんの立場で考えるようになったとの話をよく聞きます。それまでは医師に「弊社の製品はどうでしたか?」と尋ねていたのが、「〇〇〇を使っていただいた患者さん、今どうですか?」に変わった、と。すると、医師の反応がすこぶる良くなり、関係を継続できたそうです。
ワークショップ主体だから学びが定着しやすい。
松田:インテグリティ・セリングは、決して新しい方法論でありません。優秀な営業担当者なら無意識のうちに実践してきた思考や行動を体系化したものです。だから経験が浅くても伸びしろがある若手には「刺さる」と思います。マネジャー級の方にも、自身の経験を踏まえながら、部下をロジカルに指導できると好評です。
山岸:定着を促すため、ワークショップのスタイルが基本となっています。週1回、8週間にわたり実施するフォローアップが特徴でしょう。現場に持ち帰って実践した際の成功や失敗の体験をシェアして、「AIDINCの☓☓を実践したら、顧客との話がトントン拍子に進んだ。」「こうすればもっとうまくいくよ。」とディスカッションします。かなり盛り上がりますし、皆さんが成長されているのが実感でき私も嬉しくなります。
松田:顧客役と営業担当者役に分かれたロールプレイも重視しています。医師役がキーだから、医師役を全うするための研修をわざわざ別に設けているほど。
山岸:ロールプレイでは「気付きが多かった」という感想を多くいただきますね。
松田:はい、ドクター役にはわざと反論してもらいます。そうするとやっぱり慌ててしまう。もみ消そうとして本筋からズレたことをまくし立てたり。
山岸:インテグリティ・セリングでは、「反論はチャンス」なのですが、実際はなかなかうまくいきませんよね。そのことを体感できるのがロールプレイのメリットでしょう。目指すべき姿への貴重な一歩になります。
医師、患者、企業がウィンウィンになれるようお手伝いします。
松田:“セリングスキル” は世の中に多く存在します。ただ個人的に、この言葉はあまり好きではなくて。何か表面的な感じがしませんか? 小手先のテクニックを弄して売りつける、みたいな。あくまで顧客の側に立って、価値を提供したり課題を解決したりする姿勢が大切。Integrity SellingⓇ は、まさにインテグリティ=「誠実さ」がベースになっているプログラムであることを強調したいですね。
山岸:アメリカのインテグリティ・ソリューションズ社で研修を受けたとき、講師やスタッフが受講者に満足してもらいたいという誠実な気持ちが伝わってとても感銘を受けたのをよく覚えています。
松田:はい、今は私たちがここ日本でインテグリティ・セリングを展開しているところです。
山岸:私自身がインテグリティ・セリングを実践するつもりで、日々のコンサルティング業務にあたっています。顧客と誠実に向き合うことが、いずれは自社のベネフィットにつながる。この考え方は、業界を問わず通用します。製薬企業に限らずどんどん広げていけるといいですね。
松田:医療機器メーカーにもすごくマッチするプログラムだと思うんですよ。機器を説明する場合、どうしても「何メガヘルツで、ここの角度が何度で……」とスペックを強調しがちです。オペが簡易になるとか、患者さんの痛みが緩和されるとか、そこまで結び付けることが求められます。インテグリティ・セリングで医師、患者、企業の三者をウィンウィンの関係に。私たちはそのためのお手伝いをしているわけです。本当にやりがいを感じますね。
松田 良明 エグゼクティブコンサルタント
外資系製薬会社のMRからキャリアをスタートさせ、市場調査やプロダクトマネジメントを担う。その後もジェネリック医薬品メーカー、医療機器メーカーにてマーケティングや事業開発など幅広い職務に従事。スリーロックでは、30余年にわたるヘルスケア業界歴を活かし、コンサルタントとして各社の支援にあたっている。
山岸 喜恵 コンサルタント
外資系製薬会社ではマネジャーとしてマーケットリサーチを担当。新規ビジネスの方向性の提案や製品価値の最大化に取り組んだ。外資系医療機器メーカーでは営業の経験も。スリーロックでは、ワークショップ主体のコンサルティングを展開している。