地域医療の担い手 vol.4
精神疾患患者の地域移行を多角的な就労支援で実現

2024年04月19日
地域医療の担い手 vol.4 <br>精神疾患患者の地域移行を多角的な就労支援で実現

精神疾患を抱える人たちが地域で暮らせるように、病院がチームを組み、地域のリソースと連携しながら患者を支える取り組みが行われています。認知症のリハビリプログラム開発をはじめ、患者の「地域生活中心」を進めてきた埼玉県立精神医療センターの坂田増弘先生に、患者支援と連携のあり方をお聞きしました。(インタビュアー:藤井弘子)

医療にとどまらない包括的な支援が必要

――地域精神科医療モデルの構築に長年携わっていらっしゃいます。

前職の国立精神・神経医療研究センター病院では、精神疾患の患者さんの地域移行・リカバリー研究のための臨床フィールド(精神科デイケア、訪問看護ステーション)を管理しながら、地域移行を促す治療や活動に取り組んでいました。多施設共同で実施した研究では、多職種によるアウトリーチ(専門チームによる患者訪問型の支援)は、特に重症患者さんのQOL向上に寄与する可能性があることなどがわかっています。

患者さんを病院に長期間収容しておくのではなく、「患者さんがそれぞれ、自分が求める生き方を主体的に追求する」というリカバリーを支援することが、医療の重要な役割だという認識が広まってきたことで、地域で生活できる患者さんが増えているはずです。統合失調症では薬や治療法が発達してきたことで、昔ほど重症化しなくなってきていることも後押ししています。障害があっても何らかの形で社会参加・貢献できれば、地域移行へのドライブがかかっていくと思います。

その一方で、地域で暮らすには医療の範囲にとどまらない包括的な支援が必要ですが、医療と福祉をつなぐケースマネジャー的な役割を果たす人材が不足しているという課題があります。高い支援ニーズをもつ人が、病院につながっているとは限らないので、そういった潜在患者の掘り起こしも課題です。そこで、地域の精神保健を管理する、保健所の保健師との連携が重要になります。保健師は患者さんや家族などからの相談を受け、必要に応じて家庭訪問を行いますが、すべての患者さんを把握しているわけではありません。困っている時に相談できる窓口、場所があることを地域住民にいかに周知するかがポイントです。地域精神保健システムの先進地であるイタリア・トリエステに設置されている24時間対応の精神保健センターのように、いつでも誰でも利用できる施設、システムの実現が理想ですね。

自治体独自の支援で個別ニーズに対応

――精神疾患をもつ患者が地域で安心して生活できる仕組みづくりとして、どのようなことが行われていますか。

自治体が独自に予算を組んで、精神医療に関わる人材育成やアウトリーチなど、地域で患者さんを支えるシステムづくりを行っているところもあります。国立精神・神経医療研究センター病院では埼玉県所沢市からの委託事業として、治療を中断していたり、治療につながらないひきこもり状態といった従来のサービスでは支援が届かない人に対し、訪問サービスを提供していました。所沢市保健センターと多職種チームで協議したうえで、アウトリーチによるアセスメント、ケースマネジメントなどを実施。精神保健福祉法に基づく自治体の役割として活動できるため、当事者と医師との治療契約や訪問指示書がなくても、個別ニーズに応じた柔軟かつ濃厚な支援が可能です。このように、必ずしも医療とつながっていなくてもニーズがあれば訪問できるシステムが、地域で患者さんを支えるためにはどうしても必要です。

地域によるリソースの差は大きいです。都市部では就労支援施設も多くありますが、地方では選択肢も限られてしまいます。患者さんと雇用先の企業を結びつけるマッチングとか、新しい就業分野を開拓するといったことが、もっと組織的、効率的にできるようになることを願っています。

企業やIT活用により、退院や疾患啓発をサポート

――精神疾患患者に対する支援で、企業や他団体でも可能なことはありますか。

入院が長引くほど、地域での生活に慣れるのが難しくなります。退院して1カ月で再入院するといった患者さんも結構いて、入院時と地域生活とのギャップをいかに少なくできるかを考えなければなりません。入院中の病状が安定する前、社会参加への動機付けがない段階から、外での生活がイメージでき、自分に合った支援を選べるような環境づくりができるのが理想です。そこで、企業やITの力を借りる形での退院に向けたサポートが有効だと考えます。

精神疾患の患者さんが地域で安心して暮らすためには、精神疾患への誤解と偏見を減らしていく必要がありますが、現実に地域で暮らす人を増やすのが一番有効です。そのためには教育が重要で、企業や他団体などがサポートできるところだと思います。たとえばダイバーシティの問題などに絡めて、患者さんへの理解を深めるといった啓発活動を行うといったことです。精神疾患の患者さんが生活するうえで何に困っているのかの理解につながるような体験型学習などが、地域住民に対してできるといいですね。


スリーロックでは、精神疾患患者の地域生活支援に関する新規技術開発など、様々な領域で製薬会社や自治体、医療従事者などを巻き込んだプロジェクトを実施してきました。治療アクセス向上、医療連携サポートなど、地域の医療課題に応じた支援を行っております。

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